静岡の弁理士・弁護士 坂野史子のブログ

静岡市で活動している理系の弁理士 弁護士です。静岡のぞみ法律特許事務所 http://www.s-nozomilawpat.jp

特許侵害事件(横山基礎工事vs高知丸高)・・均等論・時機に後れた攻撃防御

本件は特許侵害事件です。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/005/088005_hanrei.pdf

 

私が注目すべきと考える点は,

1 均等論について第1要件だけではなく第2要件または第3要件をあわせて判断している点

2 均等論の第1要件の本質的部分の判断と進歩性の判断との関係

3 時機に後れた攻撃防御により新規性欠如の主張が却下されている点

です。

 

【第1の点】

まず,第1の点については,以下のようにマキサカルシトール最高裁判決が引用されています。

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すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。

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均等論とは,侵害品の一部の構成に特許請求の範囲に記載の構成要件と相違する点があっても,実質的同一として侵害と認められることがあるというものです。ボールスプライン事件で示された第1乃至第5要件の全てを満たさなければなりません。

 

この点について,従前は第1要件と第5要件を中心に均等論を否定する判決が多勢を占めていたと思うのですが,最近では第2要件・第3要件によって均等論を否定する判決も増加傾向にあるようです。

本件もこの点を意識し,第1要件だけではなく,第2要件又は第3要件もあわせて判断しているように思われます。

 

【第2の点】

第2の点は,第一審原告が審決取消訴訟で進歩性が認められた特徴的部分が均等論の本質的部分と理解されるべきであると主張したのに対し,以下のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」としている点です。

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第1の特徴に基づく進歩性は否定されたことから,第2の特徴こそが,本件発明3の進歩 45性を基礎付ける部分すなわち本質的部分であり,そうすると,「第1の反力プレート」1枚で回転駆動装置と反力アームの両方と係合していることは,本件発明3の本質的部分ではないと主張する。
しかし,そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題であるし,上記審決取消訴訟の判決につき1審原告主張のように理解することにも疑問がある。その点をおくとしても,

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上述のようにマキサカルシトール最高裁判決では,「特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は・・」としていることからすれば,本質的部分は従来技術と比較した特徴的部分に認められるべきということになります。

そして,特許として認められるということは,従来技術にない新規なものであり(新規性),従来技術から容易に想到できない特徴的部分がある(進歩性)からこそ,ということになります。

そうすると,上記「従来技術と比較した貢献」とは何であるか?ということを考慮するにあたっては,特許要件の判断の過程で考慮され,進歩性が認められたポイントである特徴部分が考慮されるべきであるように思われます。

 

したがって,上述のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」として切り捨てるのは,合点がいかないように思われます。

 

【第3の点】

本件では,以下のように判示して新規性欠如に関する無効理由の抗弁が却下されています。

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5 本件特許4の新規性欠如について

・・・・・・・ア 1審被告は,控訴提起(平成29年5月30日受付)及び平成29年7月26日付け第1準備書面の提出に後れる平成29年12月4日付け第6準備書面において,本件特許4につき新規性欠如による無効理由の存在を初めて主張したものであり,上記無効主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出であること,その点につき1審被告に少なくとも過失があることは明らかである。また,上記主張につき1審原告による認否反論を要すると共に,1審原告がこれを認めるとは考え難いことから,1審原告の反論に対する1審被告の再反論がされることも容易に推察される。
その結果として訴訟の完結が遅延することは明らかである。
したがって,上記無効主張については,民訴法157条に基づき,これを却下することとする。

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新規性欠如を理由とする引例ですから,それなりに強力な引例であったはずです。

控訴審の第6準備書面の提出の際というと,交渉段階・一審が終了し,さらに控訴審が相当進行した後ということになりますので,やむを得ないということもわからないではないのですが,提出した側としては必死で世界中の文献を探して続けて見つけてきた引例ということだと思いますので,却下されたときの心中を思うとなんともいえない気持ちになります。

また,民事訴訟が相対的効力しか持たないとはいっても特許事件の世間への影響や,特許の対世的効力という側面から考えた場合に時機に後れたとして却下したことが妥当であったのかは疑問があるように思います。