静岡の弁理士・弁護士 坂野史子のブログ

静岡市で活動している理系の弁理士 弁護士です。静岡のぞみ法律特許事務所 http://www.s-nozomilawpat.jp

株式会社日本入試センター 対 株式会社受験ドクター 事件

控訴人(原告)が被控訴人(被告)に対し,

1 被控訴人(被告)がHPにおいて「SAPIX今週の戦略ポイント Daily Support」等(本件各表示)と表示する行為が,控訴人(原告)の商品等表示である「SAPIX」を使用するものであり,不正競争防止法2条1項1号に規定の不正競争行為であるとして,差止・損害賠償を求めるとともに,

2 予備的に,原告の作成したテスト問題を被告が 不正に使用する行為は一般不法行為を構成するとして,民法709条に基づき, 損害賠償を求めた事件です。

控訴審

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/175/088175_hanrei.pdf

一審

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/757/087757_hanrei.pdf

 

被控訴人(被告)は,大手学習塾である控訴人(原告)学習塾での成績を向上させるために控訴人(原告)の作成したテスト問題の解説を行うという営業を行っていました。

上記2については,テスト問題の流用についてはテスト問題の著作権法違反については主張がなされておらず,一般不法行為に基づく主張のみがなされています。

 

不正競争防止法については,本件各表示は,いずれも,その表示が商品等の出所を表示 し,自他商品等を識別する機能を果たす態様で用いられているということ はできないので,不競法2条1項1号の「使用」には該当しないとされいました。

 

テスト問題を使用する行為については,

「被控訴人において,控訴人が多 額の費用と労力をかけて作成した著作物であり,いわば企業秘密として非常 に大きな価値を持つテスト問題について,控訴人に無断でその解説本を出版 し,あるいは,ライブ解説を提供する行為は,控訴人の作成したテスト問題 等を不正に使用することにより,控訴人の営業の自由を妨害することを目的 とするもので,自由競争の範囲を逸脱した不公正な行為であるから,一般不 法行為を構成すると主張する。」

とされているので,著作権侵害を主張する余地もあったのではないかと思うのですが,なぜか一般不法行為のみが主張されていたため,

「被控訴人の行為が一般不法行為を構成するのは,被控訴人の行 為により,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護 された利益が侵害されるといえる特段の事情がある場合に限られるというべ きであるところ」とした上で,

「被控訴人による解説本の出版やライブ解説の提 供が,著作権法や不競法が規律の対象とする利益とは異なる法的に保護され た利益を侵害すると直ちにいうことはできないし,控訴人の主張も,そのような利益が存在することを十分に論証しているとはいい難い。 さらに,控訴人のテスト問題を入手して解説本の出版やライブ解説の提 供を行うについての被控訴人の行為が,控訴人の営業を妨害する態様であっ たこと,又は控訴人に対する害意をもって行われたことをうかがわせる証拠 はなく,被控訴人の行為が社会通念上自由競争の範囲を逸脱する不公正な行 為であったとも認められない。」

として控訴人の請求を排斥しています。

 

おそらく,控訴人が作成したテスト問題は,一般的な教科書や参考書を組み合わせた程度のものであり,選択の幅がなく,誰が作っても同じようになるものであったか,ありふれた表現であったものであったと推測され,そのために一般不法行為に基づく主張がなされたものと推測します。

 

したがって,テスト問題がオリジナルで表現に個性が表れていれば,著作物性が認められる余地もあり得ないことではないのではかと思いますが,実際問題,テスト問題は上述のように一般的な教科書や参考書を組み合わせた程度のものであることが多く,また,アイディア自体が新しくても,個性のある表現になることはまれであると思いますので,著作権法違反を争うのは難しいように思われます。

 

学習塾における競争は少子化も相まって今後も過熱していくことと思いますが,オリジナルのテスト問題やその解説をする行為を独占することを法律的に保護する方法を構成することが極めて難しいとすると,学習塾においては,講義や進路指導等の他のサポートで魅力を出し,競争力を高めていくことが重要になってくるものと思われます。

 

なお,本件では,SAPIXは商標登録されていなかったために不正競争防止法違反で争うことになっています。識別性のない使用方法であるとの認定ですので,仮に商標が登録されていても商標的使用ではないとして,同様の結論になったものと思われます。

しかしながら,商標はブランドを育てていく重要な要素ですし,識別力のある使用方法であったとしても,不正競争防止法で争う場合には周知性の立証等要件が増えますので,商標登録を行っておくことが重要であることは改めて強調しておきたいと思います。