プロジェクト開始前に弁護士と相談することの必要性
先日顧問先から連絡があり,私が1年ほど前に新たなプロジェクトが開始する前に契約書等の作成・チェックと,関係者との交渉を行った案件について,結局のところプロジェクト自体が頓挫してしまったのだけれども,私が作った覚書のお陰で,投入した資金が実質的に返金されたという知らせがありました。
新たなプロジェクトは,関係者が多く,ソフトウエア開発等も絡み,クライアントの立場と権利をどのように確保するか等について色々と打ち合わせをし,関係者とも交渉の上で,一応スタートを切ったものでした。
プロジェクトが頓挫したこと自体は残念ですが,プロジェクト自体がクライアントにとっては経験のない種類のもので,商流に絡んでいくことでどのような利益やリスクがあるのか等,読めない点もあったので,どちらが吉であったかは分からないかもしれません。
問題が発生する前に,弁護士が介入することの重要性を再認識したところです。
費用対効果の面もありますが,新たなプロジェクト開始前には,プロジェクトの組立や関係者の立ち位置,権利,ブランドの形成等種々の観点から弁護士の法律知識や論理的思考力が役立ちます。
日頃から弁護士と密接に付き合い,プロジェクト開始時等には早めの相談がおすすめです。
特許権移転登録手続等請求事件 (セリックス対アサクラインターナショナル)
被告が製品開発を依頼し,原告が発明をした製品について,被告の冒認出願であることがみとめられ,被告が取得した特許権の原告への移転請求が認められた事件です(争点1)。
争点2として,弁護士費用等のみを損害とする不法行為に基づく損害賠償請求の可否がありますが,これについては棄却されています。
平成 29年 (ワ) 10038号 特許権移転登録手続等請求事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/107/088107_hanrei.pdf
原告が発明をしたきっかけは,被告による「このような製品はできないか」という問いかけであったのですが,具体的な課題を見いだし,具体的な構成を発明をしたのは,原告であったということが認められたものです。
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平成26年3月7日,原告代表者は,被告代表者のもとを訪れて雑談して いる際に,被告代表者から市場のニーズに適合した自動洗髪機が存在しない25 旨の話を聞いた。原告代表者が原告の技術によれば被告代表者の望むような 自動洗髪機を製造開発できる旨を伝えたところ,被告代表者は,原告代表者 7 に対し,自動洗髪機の開発を依頼した。
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判決文を見ると,発明者と認められた原告の日報や図面が証拠として提出され,被告が作成した図面も提出されていますが,これは当該原告の図面をほぼなぞったにすぎないとされています。被告は準備書面でもこれをほぼ認め,尋問でもでもほぼこれを認める供述をしてしまっています。
裁判の経緯をみると,発明に至る過程を日報や図面に残しておくことが重要であることがわかります。
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本件訴訟において,被告は,当初,全体構想計画案は,被告代表者がこれ に先行して作成し原告代表者に提示した図面(乙3)や被告代表者の説明を ほぼなぞっただけのものにすぎないと主張し(答弁書6頁),乙第3号証の10 作成時期を平成26年3月頃とする証拠説明書を提出した。
しかし,原告が,乙第3号証の図面には,全体構想計画案を構成する甲第 2号証の1の図面を複製・修正して作成されたものであることを示す複数の 痕跡が残されている旨を指摘して,乙第3号証は全体構想計画案より後に作 成されたものである旨主張したところ(原告第1準備書面4頁以下),被告15 は,乙第3号証の作成日に関して,これ以上争わないと主張するに至った(被 告第2準備書面2頁)。
その後,第1回口頭弁論期日の被告代表者本人尋問において,被告代表者 は,乙第3号証の図面は,全体構想計画案を構成する甲第2号証の1の図面 を使って作ったものである旨を供述した。また,上記答弁書の記載について,そのような説明を被告訴訟代理人に説明した記憶はなく,乙第3号証の作成 時期につき平成26年3月頃と説明していない旨も供述した。
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このような裁判の経緯に鑑みると,移転登記請求が認められることは尋問前にほぼ勝負が付いていたように思われます。
浜松市(10月19日18時半)・静岡市(10月26日18時半)・週末パテントセミナー
浜松市(10月19日18時半)・静岡市(10月26日18時半)にて,日本弁理士会東海支部主催の週末パテントセミナーの講師を務めます。
https://shizuoka-ipc.gr.jp/member/wp-content/uploads/sites/7/2018/08/2018shuumatsupatent.pdf
今年で4回目となります。
今年は判例を取り上げてほしいという静岡県委員会の委員長からのご希望があり,
・・シートカッター事件(訂正の再抗弁)
・・マキサカルシトール 事件(均等論)
・・エマックス事件(商標法47条の除斥期間等)
・・プロダクトバイプロセスクレームの事件
を取り上げ,実務に役立てるために覚えておきたいポイントを解説します。
また,知的財産高等裁判所の裁判例として,マキサカルシトール 事件を取り上げ,101ページもある判決をどのように短時間で読み解くのかを解説します。
その他,私が代理をした事件で,地裁・控訴審での勝訴した不正競争防止法の事件を取り上げます。
また,任天堂マリカー事件等最近の地裁判決の中から面白い判決を取り上げます。
また,私が普段使っている情報収集ツールについてもご紹介します。
当日会場に来ても参加できます。
無料ですので,是非お越しください。
主にクリエーターの方へ・・「著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本」のすすめ
最近出版された本です。
「著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本」
https://www.amazon.co.jp/著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本-大串-肇/dp/4862464149
私はクリエーター支援も自分の仕事の主軸にしたいと考えていますが,これはすごくよい本です。クリエーターの方は必読だと思います。企業法務部の方や,著作権等にあまり詳しくない弁護士等にもおすすめです。
私が特によいと思った点は,
・黄色で印が付いている部分をざっと読むだけでも全体像がわかること
・クリエーターが,他人の権利を侵害することが信用失墜となること等について,わかりやすく説明し,守るべき注意点について具体的な記載がなされていること。トラブルになること事態がリスクであること等についてもわかりやすく説明されていること。
・クリエーターが著作権を侵害された場合等のトラブル対処法について具体的な記載があること。特に実際にトラブルにあったクリエーターの体験談がのっていること。
・プログラムコード・ライセンスについて,何に気をつけるべきかわかりやすい記載があること。
・クレイエータ−のポートフォリオについて著作権の処理について触れていること。・・これは盲点だと思いました。
独立する前に会社で製作した著作物は会社に著作権と著作者人格権が帰属します。したがって,営業用のポートフォリオに自分の作品として載せることは,会社の著作権(複製権)の侵害となるのです。この点について,黙示の許諾がなされており,特にトラブルになっていないことが多いと思いますが,厳密には退職時等にポートフォリオへの利用については許諾を得ておくことが安心でしょう。
また,イラスト等を頼まれたクライアントに著作権を譲渡するという取引にする場合も,クライアントに著作権が帰属します。こちらについても,黙示の許諾がなされており,特にトラブルになっていないことが多いと思いますが,ポートフォリオの作成には,厳密には著作権者であるクライアントの許諾が必要ですので,契約書の中にクリエーターがポートフォリオに使用する場合については許諾するという一文を盛り込んでおくことが安心です。
さらに今後,第2版等により内容を充実させて頂けるとすれば,商標権・意匠権等の工業所有権や不正競争防止法との関係にも触れて欲しいです。
クリエーターの作品は,複数の法律によって保護される可能性がありますので,これらの法律による多面的な分析をして頂けるとより充実した内容になるのではないかと思います。
是非クリエーターや企業法務部の方や,著作権等にあまり詳しくない弁護士等にたくさん買って頂いて,第2版等でより充実した内容でブラッシュアップされたものが出版されることを期待しています。
イラストレーターがイラストをネットで転載されたことについて,損害賠償30万円が認められた事件
イラストレーターがイラストをネットで転載されたことについて,損害賠償30万円が認められた事件です。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/021/088021_hanrei.pdf
イラストレーターが自分のイラストを複製・公衆送信された場合に権利主張をすることが重要であることを改めて確認する上で重要かと思います。
原告はカラーイラスト1点の使用料相当額年間10万円を主張し,使用料相当額合計90万円及び弁護士費用9万円を請求していました。
裁判所が認めたのは,30万円でした。
理由は,イラストレータが出版社等から受けていたイラストの値段に加えて,
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とされています。
被告が侵害により利益を得ている場合には著作権法114条1項・2項により,原告または被告の利益の額から損害額が推定されますが,インターネットで公開した場合には114条3項に基づき使用料相当額が損害額となり,その場合には,原告の原稿料が斟酌されるということが示されていることになります。
その他の論点として,被告が投稿(公衆送信)を行った者ではなく,サイトの管理者であった点です。
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被告は「ニュースちゃんねる」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」10 という。)の運営に関与する者である。本件サイトは,主に他のウェブサイトに 掲載されている文章や画像を転載するというものである。
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この点については,以下のように判示して被告の責任を認めています。
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サイトの管理者に対して共同不法行為に基づく損害賠償請求が認められることを示したものとして参考になるものと考えます。
契約書のチェック時には理由を付ける
ケースバイケースですが,私は契約書のチェックを頼まれた場合,変更の提案理由がわかる文書を作成することが多いです。
例えば契約書の変更案の文書と,その理由をまとめた文書(「変更願」等というタイトルを付けて,クライアント名で相手方に文書が送ることができるようにまとめることが多いです)を別々に作ります。
契約書のレビューをしていると,相手方の担当者が,契約書をただワードの変更履歴付で変更した案を送りつけている場合も多いのですが,これではどうして変更案が提案されているのか理由がわかりません。
契約書は言葉である以上,曖昧な部分も含んでおり,後々解釈が必要になる場合もありますから,その場合にも理由書は当事者の意思を探る上で重要な資料になると考えています。
契約書の一部を理由も告げずに削除したり,変更したりするのはあまりにも乱暴ですし,理由が分からなければ,その提案の意味を正確に理解することができません。このようなコミュニケーションの取り方では,双方にとってよりよい解決の方向を協同で模索するという関係を築くことは難しいと思います。
私が相談を受けたときには,クライアントの担当者と相手方の担当者のワードの変更履歴が重なりすぎて,もうなんだかわからなくなって,不信感が募り,関係性がこじれていることもよく見られます。
契約書も訴訟も結局のところ,双方の立場はあるものの,同じ社会で生きる主体同士が共存するための協同作業であるべきだと私は思います。
フリーランスのイラストレーターの法律問題(6)・・著作権と意匠権・商標権の関係
(相談)
1 依頼者に依頼されて創作したキャラクターやマーク等を発表して商品化等していました。
依頼者は,私から著作権の譲渡を受けていました。
ところが,他者が,依頼者の商品を見て,依頼者が使用している商品・役務と同一・類似の範囲で商標出願をし,登録してしまいました。
依頼者や私は何もできないのでしょうか。
2 依頼者に依頼されてキャラクターやマーク等をデザインをしていました。依頼者とは秘密保持契約を締結していました。
著作権を依頼者に譲渡していません。
ところが,依頼者が勝手に著作物の公開前に意匠登録出願をし,登録を受けてしまいました。私は著作権を持っていると思いますが,何もできないのでしょうか。
(回答)
1について
まず,商売をするなら,商標登録は是非検討しましょう。
商標法には,出願時に周知であれば使用していた範囲で標章を使用し続けられる先使用権が認められますが(商標法32条),周知性の立証が容易とは言いがたいですし,せっかくブランドを育てるならば,商標登録をうけてブランドを大事に安全に育てていくのが得策だからです。
商標権については,他人の著作権と抵触する範囲での使用が制限されています(商標法29条)。したがって,そもそも商標権を登録しても,著作権と抵触する範囲では使用することができないのです。
依頼者は著作権に基づき,商標権者による商標の使用を差止・損害賠償を請求することができます。
また,改変がなされている場合には,イラストレーターには著作者人格権が帰属していますので,イラストレーターは同一性保持権(著作権法20条)に基づき,差止・損害賠償を請求することができます。
2 意匠権についても,他人の著作権と抵触する部分については抵触する範囲での業としての実施が制限されます(意匠法26条)。
イラストレーターは著作権を有していますので,著作権に基づき,依頼者に差止・損害賠償を請求することができます。
上記のようなトラブルを防ぐためには,契約書において,著作権に関する帰属や使用許諾に係る規定だけではなく,意匠出願や商標出願をどうするかということを規定した内容を盛り込んでおくことが考えられます。
フリーランスのイラストレーターと話をしていると,契約書を作成していない場合も多いようですが,少なくとも著作権や著作者人格権や秘密保持についてきちんと決めておかないと後でトラブルになります。
また,イラストレーターにおいて,できれば意匠権・商標権についても,将来的にどのような形で商売を展開するかも見据えて,依頼者と協議をできるような知識を蓄えておくことが重要ではないでしょうか。
イラストを提供するだけではなく,商品展開に関する権利についても依頼者と協議をし,一緒に商品等をブランド化し,育てていければ,フリーランスのイラストレーターの依頼者から見た際の価値も大きく向上するものと思います。