静岡の弁理士・弁護士 坂野史子のブログ

静岡市で活動している理系の弁理士 弁護士です。静岡のぞみ法律特許事務所 http://www.s-nozomilawpat.jp

任天堂マリカー事件(マリカー社(旧商号)の商標の登録は維持されたが,不正競争防止法違反では任天堂が勝訴した事件)

任天堂が旧商号マリオカートに対して提起していた不正競争防止法違反事件について東京地裁にて勝訴したことを発表しました。

 

www.nintendo.co.jp

 

本件について,

マリカーという商標が被告によって一昨年特許庁にて商標登録され,

任天堂が商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標)及び4条1項19号(他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの)に基づいて異議申立を行いましたが,

特許庁は昨年1月に登録を維持するという判断をし,

任天堂が2月に不正競争防止法違反等で訴訟提起をしたという経緯であると報道されています。

 

判決が公開されていないので,不正競争防止法の条文はわかりませんが,任天堂の発表だと商品等表示に基づくものなので,

不正競争防止法2条1項1号(他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

不正競争防止法2条1項2号(自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

に関する違反であると主張したものと思われます。

 

判決を見てみないとなんともいえませんが,商標法4条1項15号にも「混同」という文言があり,不正競争防止法2条1項1号にも「混同」という文言がありますので,特許庁の判断と裁判所の判断が異なるものであったということもできる可能性があります。

商標法と不正競争防止法は目的の異なる法律であるから,判断が異なってもよいということに形式的にはなるわけです。

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商標法
(目的)
第一条 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
 

不正競争防止法

(目的)

第一条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

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しかしながら,同じ商品・役務に関する識別表示を保護するものである点からすれば,判断手法等に一定の共通性が認められます。

また,商標を数多く扱う登録官庁たる特許庁での審査等を経て商標法で維持されたものが,不正競争防止法では登録なく保護されるということになると,権利者にとっては厳しいという観点もあるように思われます。

 

もちろん,裁判では商標法の異議申立とは異なる証拠が数多く出されたという可能性もありますので,なんともいえませんが,本件の裁判では,スーパーマリオという任天堂の長年にわたる著名な看板商品に関するものであった点が大きく評価されたのではないかと思われます。

 

商標と不正競争防止法2条1項1号・2号との関係については,上述のように裁判所は法律が異なっているのであるから,それぞれ独自の判断がなされてよいというように考えており,特に不正競争防止法に関する商品等表示性・周知性・混同の判断基準がよくわからないという感じがします。

 

商標と不正競争防止法2条1項1号・2号との関係について,あまり議論されているものを見たことはないのですが,最近の裁判所の傾向ではコメダ事件や無印良品事件のように,不正競争防止法による保護を強化する方向に向かっているように思われますので,特許庁の登録制度の存在意義との観点からも,この点については十分に議論すべき点なのではないかと思います。

 

 

特許侵害事件(横山基礎工事vs高知丸高)・・均等論・時機に後れた攻撃防御

本件は特許侵害事件です。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/005/088005_hanrei.pdf

 

私が注目すべきと考える点は,

1 均等論について第1要件だけではなく第2要件または第3要件をあわせて判断している点

2 均等論の第1要件の本質的部分の判断と進歩性の判断との関係

3 時機に後れた攻撃防御により新規性欠如の主張が却下されている点

です。

 

【第1の点】

まず,第1の点については,以下のようにマキサカルシトール最高裁判決が引用されています。

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すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。

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均等論とは,侵害品の一部の構成に特許請求の範囲に記載の構成要件と相違する点があっても,実質的同一として侵害と認められることがあるというものです。ボールスプライン事件で示された第1乃至第5要件の全てを満たさなければなりません。

 

この点について,従前は第1要件と第5要件を中心に均等論を否定する判決が多勢を占めていたと思うのですが,最近では第2要件・第3要件によって均等論を否定する判決も増加傾向にあるようです。

本件もこの点を意識し,第1要件だけではなく,第2要件又は第3要件もあわせて判断しているように思われます。

 

【第2の点】

第2の点は,第一審原告が審決取消訴訟で進歩性が認められた特徴的部分が均等論の本質的部分と理解されるべきであると主張したのに対し,以下のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」としている点です。

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第1の特徴に基づく進歩性は否定されたことから,第2の特徴こそが,本件発明3の進歩 45性を基礎付ける部分すなわち本質的部分であり,そうすると,「第1の反力プレート」1枚で回転駆動装置と反力アームの両方と係合していることは,本件発明3の本質的部分ではないと主張する。
しかし,そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題であるし,上記審決取消訴訟の判決につき1審原告主張のように理解することにも疑問がある。その点をおくとしても,

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上述のようにマキサカルシトール最高裁判決では,「特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は・・」としていることからすれば,本質的部分は従来技術と比較した特徴的部分に認められるべきということになります。

そして,特許として認められるということは,従来技術にない新規なものであり(新規性),従来技術から容易に想到できない特徴的部分がある(進歩性)からこそ,ということになります。

そうすると,上記「従来技術と比較した貢献」とは何であるか?ということを考慮するにあたっては,特許要件の判断の過程で考慮され,進歩性が認められたポイントである特徴部分が考慮されるべきであるように思われます。

 

したがって,上述のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」として切り捨てるのは,合点がいかないように思われます。

 

【第3の点】

本件では,以下のように判示して新規性欠如に関する無効理由の抗弁が却下されています。

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5 本件特許4の新規性欠如について

・・・・・・・ア 1審被告は,控訴提起(平成29年5月30日受付)及び平成29年7月26日付け第1準備書面の提出に後れる平成29年12月4日付け第6準備書面において,本件特許4につき新規性欠如による無効理由の存在を初めて主張したものであり,上記無効主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出であること,その点につき1審被告に少なくとも過失があることは明らかである。また,上記主張につき1審原告による認否反論を要すると共に,1審原告がこれを認めるとは考え難いことから,1審原告の反論に対する1審被告の再反論がされることも容易に推察される。
その結果として訴訟の完結が遅延することは明らかである。
したがって,上記無効主張については,民訴法157条に基づき,これを却下することとする。

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新規性欠如を理由とする引例ですから,それなりに強力な引例であったはずです。

控訴審の第6準備書面の提出の際というと,交渉段階・一審が終了し,さらに控訴審が相当進行した後ということになりますので,やむを得ないということもわからないではないのですが,提出した側としては必死で世界中の文献を探して続けて見つけてきた引例ということだと思いますので,却下されたときの心中を思うとなんともいえない気持ちになります。

また,民事訴訟が相対的効力しか持たないとはいっても特許事件の世間への影響や,特許の対世的効力という側面から考えた場合に時機に後れたとして却下したことが妥当であったのかは疑問があるように思います。

 

 

 

グリー対スーパーセルオーワイ特許侵害事件・・出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した事例

最近ゲーム業界は,著作権侵害で争った釣りゲーム事件の影響か,著作権ではなく特許侵害で争う事件が多くなっているといわています。

 

tokkyo.hanrei.jp

本件で注目したいのは,ゲーム特有の問題ではなく,以下のように「ゲーム空間の全体」という構成の意義を出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した点です。

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これに対し,原告は,構成要件1C及び2Dにおける「ゲーム空間の全体」 とは文字通りゲーム空間全体を意味するのであってゲーム空間のうちどの部 分を選択するかの決定権をプレイヤが有していることを必須の構成要素とは 5 するものではないと主張し,また,本件明細書の第1及び第2実施形態は,テ ンプレートの作成,適用の具体例を示したにすぎないなどと主張する。
しかし, 「ゲーム空間の全体」がプレイヤによって選択されるとしても,プレ イヤによってどのような態様による選択がされるかについては,特許請求の範 囲の記載からは明らかではない。本件明細書には,テンプレートの作成に当た10 って,プレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択することは記載されている が,それ以外の選択に関する構成については何ら記載も示唆もないから,前記 と異なる態様でのプレイヤによる選択について,本件明細書に記載や示唆が あるとはいえないし,原出願日の当業者の技術常識に照らして明らかであると もいえない。また,原告は,本件特許の出願経過(甲22)において,プレイ15 ヤがタップする任意の2点をゲーム空間の左上及び右下の点とすれば「ゲーム 空間の全体」になるなどと説明しており,この説明はプレイヤにおいてゲーム 空間内の一定の範囲を選択することを前提としているものといえ,前記 の解 釈に沿うものといえる。原告の主張は採用することができない。

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そもそも特許は技術を技術思想に昇華させ,それを言葉で表すという無理なことをしているので,どうしても曖昧な部分がでてきます。明細書内に全ての文言を定義しておくというのも現実的ではないし,そのようなことをすれば,むしろ特許の技術的範囲をむやみに狭める方向に働くこともあるでしょう。

 

加えて出願経過においては,特許を取得することが目的ですから,多少強めの主張をすることもあり得るところです。

 

他方,競合品(侵害品)として将来どのような態様が出現するかは,出願時や意見書提出時に予測することは困難です。

 

文言に拘泥せず,発明の本質をどう捕らえるか,というところが特許侵害事件の本質であると思いますが,かといって技術を言葉で表したり,意見を言葉で表明している以上,言葉は無視できない。

 

現在は無効審判等以外は同じ事務所の弁理士が対応しているので,私自身は出願等の実務はやっていないのですが,弁理士として対特許庁の業務を行っているときには,特に意見書提出の際に,いかに余計なことを書かずにうまく特許にできるか考えたりしていましたが,改めて難しい問題だなあと思いました。

 

ザ・リラクス 対ザラ・ジャパン事件・・ファッションのデッドコピー(不正競争防止法2条1項3号)が認められたが,損害額について,商品の価格差等を考慮して「原告が販売することができないとする事情」を認めた事例

ファッションのデッドコピーについて不正競争防止法2条1項3号で差止・損害賠償を請求する事例は最近結構ありますが,これもそうです。

etc.hanrei.jp

ファッションはライフサイクルが短いので,意匠等で登録するコストをかける程のものではなく,不正競争防止法2条1項3号による日本国内での発売3年以内という期限付のデッドコピー規制が適しているといえると思います。

 

特徴的なのは,不正競争防止法19条5号ロの適用除外について

・ザラ・ジャパンが輸入業者であったため,「他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者」であると認定された点。

・しかしながら,デッドコピー品であることを知らないことにつき重過失ありとして,適用除外が排除され,不正競争防止法2条1項3号が認定された点です。

 

さらにもう一つ,知財屋として注目したいのは,損害額の推定規定の適用です。

本件は不正競争防止法5条1項に基づく請求ですので,原告の利益額を基準に損害賠償請求をしているのですが,原告と被告の商品の大きな価格差,被告のブランド力等を理由に,「原告が販売することができない事情」があるとして損害額が減額されている点です。

 

ファッションブランドにおいては,デッドコピー規制は要注意であり,もちろん,オリジナルデザインで商品を創出していくことにこしたことはありませんが,仮に問題になった場合には,自社のブランド力や販売力,ライバル会社の動向等により,損害額を減額することができる可能性があるということです。

 

著作権法30条の4はフェアユースなのか

文化庁の資料には改正著作権法30条の4について以下のように記載されています(なお施行は来年からです)。

【条文の骨子】

包括的に規定

 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物
に表現された思想又は感情の享受を目的としない
場合には、その必要と認められる限度においていずれの方法によるかを問わず、利用することが
できる。

利用方法は限定せず

 ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は
この限りでない

1 著作物利用に係る技術開発・実用化の試験

2 情報解析
3 1・2のほか、人の知覚による認識を伴わない

利用

 

いやーわかりにくいですね。

かねてから議論されてきたフェアユースについて規定したものではないかと言われていますが非利益享受について,人の知覚による認識を伴うものが除外されたら,議論されてきたフェアユースとしては意味ないんじゃないでしょうか。

 

ちなみにアメリカのフェアユースの基準は以下のとおりです。

1.利用の目的と性格(営利目的か非営利か等)
2.著作物の性質(高度な創作か事実に基づいたものか等)
3.利用された部分の量と重要性
4.著作物の潜在的価値に対する利用の及ぼす影響(著作者が損をするか等)

 

著作者が損をしなければ,著作物は自由に利用した方が文化の発展に資するということだと思います。著作権は登録制ではないので,登録なしでどんどん発生してしまいます。しかも著作者の死後50年という長期間にわたるもので,特許権等と同様,損害の額の推定規定も設けられており,非常に強大です。

 

判例の蓄積を待ちたいところですが,著作権法30条の4の1乃至3の例示が柔軟な適用を妨げるとすれば,なんとももったいないなあと思います。

ブログの記事が日本語の勉強になる

オーストラリアにいらっしゃる依頼者から,私のブログは日本語の勉強になる,と仰って頂きました。

 

簡潔な文章でわかりやすいからということだそうです。

 

うれしかったので,記録に残しておきます。

 

これからも簡潔でわかりやすい文章を心がけたいと思います。

交通事故にあったら早めに弁護士に相談してください。

知的財産権や企業法務の他に,交通事故等のご相談も受けています。

過失割合の分析やカルテや診断書の分析には理系の素質が役に立つと感じています。

 

先日弁護士特約を使ってご相談にみえた方から,

「もう少し早く相談に来ればよかったんだけど・・・・」

と言われました。

 

治療が終了する時点で,痛み等が残っている場合は,医師に後遺障害診断書を書いてもらい,後遺障害の等級認定が受けられるかどうか申請を行うことが考えられます。

 

構造的な異常がレントゲン等で確認できない場合でも,後遺障害診断書の書き方や,症状及びそれによって普段困っていること等をまとめた陳述書を付ける等の方法により,通院頻度が高く,それなりに長い期間通院していると後遺障害が認められることがあります。

 

もちろん必ず後遺障害が認められるとは限りませんが,後遺障害診断書の記載方法等について早めに弁護士のアドバイスを受けておくと,適切な処理を行うことができ,後遺障害等級認定を受けられる可能性が高くなると感じています。

私が過去に扱った事件でも,自分で等級申請を行った場合には認められなかったものが,弁護士が介入して異議申立を行うことによって等級がみとめられたり,最初に後遺障害等級申請を行う段階から弁護士が介入することにより,早期に後遺障害がみとめられたりしたことがあります。

 

弁護士特約がついていれば,弁護士費用は心配せずに相談をすることができますから,安心です。自動車保険には是非弁護士特約を付けてください。

保険会社から提示される損害賠償額は裁判基準よりも低いことが通常ですが,弁護士に依頼をすれば裁判基準での請求が可能となりますし,何よりも,交渉を弁護士にまかせることにより,安心と納得を得られることになります。

 

交通事故は,どんなに注意をしていても起こってしまうことがあるものです。

事故にあったら早めに弁護士にご相談ください。