静岡の弁理士・弁護士 坂野史子のブログ

静岡市で活動している理系の弁理士 弁護士です。静岡のぞみ法律特許事務所 http://www.s-nozomilawpat.jp

主にクリエーターの方へ・・「著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本」のすすめ

最近出版された本です。

著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本」

https://www.amazon.co.jp/著作権トラブル解決のバイブル-クリエイターのための権利の本-大串-肇/dp/4862464149

 

私はクリエーター支援も自分の仕事の主軸にしたいと考えていますが,これはすごくよい本です。クリエーターの方は必読だと思います。企業法務部の方や,著作権等にあまり詳しくない弁護士等にもおすすめです。

 

私が特によいと思った点は,

・黄色で印が付いている部分をざっと読むだけでも全体像がわかること

 

・クリエーターが,他人の権利を侵害することが信用失墜となること等について,わかりやすく説明し,守るべき注意点について具体的な記載がなされていること。トラブルになること事態がリスクであること等についてもわかりやすく説明されていること。

 

・クリエーターが著作権を侵害された場合等のトラブル対処法について具体的な記載があること。特に実際にトラブルにあったクリエーターの体験談がのっていること。

 

・プログラムコード・ライセンスについて,何に気をつけるべきかわかりやすい記載があること。

 

・クレイエータ−のポートフォリオについて著作権の処理について触れていること。・・これは盲点だと思いました。

独立する前に会社で製作した著作物は会社に著作権著作者人格権が帰属します。したがって,営業用のポートフォリオに自分の作品として載せることは,会社の著作権(複製権)の侵害となるのです。この点について,黙示の許諾がなされており,特にトラブルになっていないことが多いと思いますが,厳密には退職時等にポートフォリオへの利用については許諾を得ておくことが安心でしょう。

また,イラスト等を頼まれたクライアントに著作権を譲渡するという取引にする場合も,クライアントに著作権が帰属します。こちらについても,黙示の許諾がなされており,特にトラブルになっていないことが多いと思いますが,ポートフォリオの作成には,厳密には著作権者であるクライアントの許諾が必要ですので,契約書の中にクリエーターがポートフォリオに使用する場合については許諾するという一文を盛り込んでおくことが安心です。

 

さらに今後,第2版等により内容を充実させて頂けるとすれば,商標権・意匠権等の工業所有権や不正競争防止法との関係にも触れて欲しいです。

リエーターの作品は,複数の法律によって保護される可能性がありますので,これらの法律による多面的な分析をして頂けるとより充実した内容になるのではないかと思います。

 

是非クリエーターや企業法務部の方や,著作権等にあまり詳しくない弁護士等にたくさん買って頂いて,第2版等でより充実した内容でブラッシュアップされたものが出版されることを期待しています。

 

イラストレーターがイラストをネットで転載されたことについて,損害賠償30万円が認められた事件

イラストレーターがイラストをネットで転載されたことについて,損害賠償30万円が認められた事件です。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/021/088021_hanrei.pdf

 

イラストレーターが自分のイラストを複製・公衆送信された場合に権利主張をすることが重要であることを改めて確認する上で重要かと思います。

 

原告はカラーイラスト1点の使用料相当額年間10万円を主張し,使用料相当額合計90万円及び弁護士費用9万円を請求していました。

裁判所が認めたのは,30万円でした。

理由は,イラストレータが出版社等から受けていたイラストの値段に加えて,

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一つのテーマをめぐる複数の個別のイラストからなり,他人を笑わせる要素も含まれているもので,カラ ーで描かれた漫画に準じる部分があるとも理解できることや,漫画をウェブサ イトに掲載するに当たっては一定の掲載期間を前提とした使用料が定められ ていることなどの事情を総合的に勘案すれば,原告が本件各イラストの使用に 対し受けるべき金額は,イラスト1点につき1年当たり3万円とするのが相当 である。

最高裁判所 裁判例集

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とされています。

 

被告が侵害により利益を得ている場合には著作権法114条1項・2項により,原告または被告の利益の額から損害額が推定されますが,インターネットで公開した場合には114条3項に基づき使用料相当額が損害額となり,その場合には,原告の原稿料が斟酌されるということが示されていることになります。

 

その他の論点として,被告が投稿(公衆送信)を行った者ではなく,サイトの管理者であった点です。

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 被告は「ニュースちゃんねる」と題するウェブサイト(以下「本件サイト」10 という。)の運営に関与する者である。本件サイトは,主に他のウェブサイトに 掲載されている文章や画像を転載するというものである。

最高裁判所 裁判例集

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この点については,以下のように判示して被告の責任を認めています。

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被告は形式的にも実質的にも本件サイトの運営において重要な役割を担っていたというべきであるから,少なくとも,本件記事の投稿等について共同不法行為に基づく法的責任を負う立場にあったものと認められる。

最高裁判所 裁判例集

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サイトの管理者に対して共同不法行為に基づく損害賠償請求が認められることを示したものとして参考になるものと考えます。

 

 

 

 

契約書のチェック時には理由を付ける

ケースバイケースですが,私は契約書のチェックを頼まれた場合,変更の提案理由がわかる文書を作成することが多いです。

 

例えば契約書の変更案の文書と,その理由をまとめた文書(「変更願」等というタイトルを付けて,クライアント名で相手方に文書が送ることができるようにまとめることが多いです)を別々に作ります。

 

契約書のレビューをしていると,相手方の担当者が,契約書をただワードの変更履歴付で変更した案を送りつけている場合も多いのですが,これではどうして変更案が提案されているのか理由がわかりません。

契約書は言葉である以上,曖昧な部分も含んでおり,後々解釈が必要になる場合もありますから,その場合にも理由書は当事者の意思を探る上で重要な資料になると考えています。

 

契約書の一部を理由も告げずに削除したり,変更したりするのはあまりにも乱暴ですし,理由が分からなければ,その提案の意味を正確に理解することができません。このようなコミュニケーションの取り方では,双方にとってよりよい解決の方向を協同で模索するという関係を築くことは難しいと思います。

私が相談を受けたときには,クライアントの担当者と相手方の担当者のワードの変更履歴が重なりすぎて,もうなんだかわからなくなって,不信感が募り,関係性がこじれていることもよく見られます。

 

契約書も訴訟も結局のところ,双方の立場はあるものの,同じ社会で生きる主体同士が共存するための協同作業であるべきだと私は思います。

 

フリーランスのイラストレーターの法律問題(6)・・著作権と意匠権・商標権の関係

(相談)

1 依頼者に依頼されて創作したキャラクターやマーク等を発表して商品化等していました。

依頼者は,私から著作権の譲渡を受けていました。

ところが,他者が,依頼者の商品を見て,依頼者が使用している商品・役務と同一・類似の範囲で商標出願をし,登録してしまいました。

依頼者や私は何もできないのでしょうか。

 

2 依頼者に依頼されてキャラクターやマーク等をデザインをしていました。依頼者とは秘密保持契約を締結していました。

著作権を依頼者に譲渡していません。

 ところが,依頼者が勝手に著作物の公開前に意匠登録出願をし,登録を受けてしまいました。私は著作権を持っていると思いますが,何もできないのでしょうか。

 

(回答)

1について

まず,商売をするなら,商標登録は是非検討しましょう。

商標法には,出願時に周知であれば使用していた範囲で標章を使用し続けられる先使用権が認められますが(商標法32条),周知性の立証が容易とは言いがたいですし,せっかくブランドを育てるならば,商標登録をうけてブランドを大事に安全に育てていくのが得策だからです。

 

商標権については,他人の著作権と抵触する範囲での使用が制限されています(商標法29条)。したがって,そもそも商標権を登録しても,著作権と抵触する範囲では使用することができないのです。

 

依頼者は著作権に基づき,商標権者による商標の使用を差止・損害賠償を請求することができます。

 

また,改変がなされている場合には,イラストレーターには著作者人格権が帰属していますので,イラストレーターは同一性保持権(著作権法20条)に基づき,差止・損害賠償を請求することができます。

 

2 意匠権についても,他人の著作権と抵触する部分については抵触する範囲での業としての実施が制限されます(意匠法26条)。

 

イラストレーターは著作権を有していますので,著作権に基づき,依頼者に差止・損害賠償を請求することができます。

 

 

上記のようなトラブルを防ぐためには,契約書において,著作権に関する帰属や使用許諾に係る規定だけではなく,意匠出願や商標出願をどうするかということを規定した内容を盛り込んでおくことが考えられます。

 

フリーランスイラストレーターと話をしていると,契約書を作成していない場合も多いようですが,少なくとも著作権著作者人格権や秘密保持についてきちんと決めておかないと後でトラブルになります。

 

また,イラストレーターにおいて,できれば意匠権・商標権についても,将来的にどのような形で商売を展開するかも見据えて,依頼者と協議をできるような知識を蓄えておくことが重要ではないでしょうか。

イラストを提供するだけではなく,商品展開に関する権利についても依頼者と協議をし,一緒に商品等をブランド化し,育てていければ,フリーランスイラストレーターの依頼者から見た際の価値も大きく向上するものと思います。

 

JAL 対 南急事件・・商標権侵害・不正競争防止法2条1項1号の判断をせずに不正競争防止法2条1項2号のみを判断し、差止を認めた事例

JALの鳥のマークが似ていて、文字は「JAL」ではなく「南急」となっていたという標章について、JALが訴えた事件です。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/015/088015_hanrei.pdf

気になる点は以下の点です。

 

1 商標権侵害,不正競争防止法2条1項1号違反も主張されていましたが,裁判所は不正競争防止法2条1項2号のみを判断した

 

2 差止のみみとめられており,損害賠償請求はされていない点

 

第1の点について裁判所は以下のように判示しています。

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不競法 2条1項1号の不正競争においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号の不正競争にあっては,著名な商品等表示とそれ を有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度 に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させる ほど類似しているような表示か否かを検討すべきものであるから,被告指摘の事情 類似性の判断に影響を与えるものではなく,失当である。

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・流石に社名である文字が「JAL」ではなく「南急」の場合に混同が生じるとは言いがたい

・そうだとすると商標権侵害と混同要件の入っている不正競争防止法2条1項1号は難しい

・したがって不正競争防止法2条1項2号で希釈化(ブランド価値の毀損)でいく

 

ということで,不正競争防止法2条1項2号のみで判断をしたということだと思われます。

 

フランク三浦事件は商標権侵害のみを主張し,不正競争防止法違反については主張していなかったところ,フランク三浦はフランクミュラーのブランド価値の毀損であり,不正競争防止法違反であるという論者もいますので,少し有名だと思ったら,商標権侵害だけではなく,不正競争防止法2条1項1号・2号とを抱き合わせにするというのは,スタンダードになっていくように思います。

 

個人的には登録制度を持たない不正競争防止法に強大な権利行使を認めるのはどうかと思いますが,時代はそのように動いているのではないかと思います。

 

第2点については,損害論まで本気でやると本当に大変で時間がかかることを考えると,訴訟自体が1年という短期で終結している理由はここかなと思います。

 

ちなみに南急は静岡の代理人だったのですね。もし一言ご相談くだされば,不正競争防止法は最近危ないですよ・・位のアドバイスは差し上げられたかもしれません・・などと思ったり・・

 

 

任天堂マリカー事件(マリカー社(旧商号)の商標の登録は維持されたが,不正競争防止法違反では任天堂が勝訴した事件)

任天堂が旧商号マリオカートに対して提起していた不正競争防止法違反事件について東京地裁にて勝訴したことを発表しました。

 

www.nintendo.co.jp

 

本件について,

マリカーという商標が被告によって一昨年特許庁にて商標登録され,

任天堂が商標法4条1項15号(他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標)及び4条1項19号(他人の業務に係る商品又は役務を表示するものとして日本国内又は外国における需要者の間に広く認識されている商標と同一又は類似の商標であつて、不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的をいう。以下同じ。)をもつて使用をするもの)に基づいて異議申立を行いましたが,

特許庁は昨年1月に登録を維持するという判断をし,

任天堂が2月に不正競争防止法違反等で訴訟提起をしたという経緯であると報道されています。

 

判決が公開されていないので,不正競争防止法の条文はわかりませんが,任天堂の発表だと商品等表示に基づくものなので,

不正競争防止法2条1項1号(他人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示を使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供して、他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為

不正競争防止法2条1項2号(自己の商品等表示として他人の著名な商品等表示と同一若しくは類似のものを使用し、又はその商品等表示を使用した商品を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、輸出し、輸入し、若しくは電気通信回線を通じて提供する行為

に関する違反であると主張したものと思われます。

 

判決を見てみないとなんともいえませんが,商標法4条1項15号にも「混同」という文言があり,不正競争防止法2条1項1号にも「混同」という文言がありますので,特許庁の判断と裁判所の判断が異なるものであったということもできる可能性があります。

商標法と不正競争防止法は目的の異なる法律であるから,判断が異なってもよいということに形式的にはなるわけです。

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商標法
(目的)
第一条 この法律は、商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護することを目的とする。
 

不正競争防止法

(目的)

第一条 この法律は、事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため、不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

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しかしながら,同じ商品・役務に関する識別表示を保護するものである点からすれば,判断手法等に一定の共通性が認められます。

また,商標を数多く扱う登録官庁たる特許庁での審査等を経て商標法で維持されたものが,不正競争防止法では登録なく保護されるということになると,権利者にとっては厳しいという観点もあるように思われます。

 

もちろん,裁判では商標法の異議申立とは異なる証拠が数多く出されたという可能性もありますので,なんともいえませんが,本件の裁判では,スーパーマリオという任天堂の長年にわたる著名な看板商品に関するものであった点が大きく評価されたのではないかと思われます。

 

商標と不正競争防止法2条1項1号・2号との関係については,上述のように裁判所は法律が異なっているのであるから,それぞれ独自の判断がなされてよいというように考えており,特に不正競争防止法に関する商品等表示性・周知性・混同の判断基準がよくわからないという感じがします。

 

商標と不正競争防止法2条1項1号・2号との関係について,あまり議論されているものを見たことはないのですが,最近の裁判所の傾向ではコメダ事件や無印良品事件のように,不正競争防止法による保護を強化する方向に向かっているように思われますので,特許庁の登録制度の存在意義との観点からも,この点については十分に議論すべき点なのではないかと思います。

 

 

特許侵害事件(横山基礎工事vs高知丸高)・・均等論・時機に後れた攻撃防御

本件は特許侵害事件です。

 

http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/005/088005_hanrei.pdf

 

私が注目すべきと考える点は,

1 均等論について第1要件だけではなく第2要件または第3要件をあわせて判断している点

2 均等論の第1要件の本質的部分の判断と進歩性の判断との関係

3 時機に後れた攻撃防御により新規性欠如の主張が却下されている点

です。

 

【第1の点】

まず,第1の点については,以下のようにマキサカルシトール最高裁判決が引用されています。

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すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。

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均等論とは,侵害品の一部の構成に特許請求の範囲に記載の構成要件と相違する点があっても,実質的同一として侵害と認められることがあるというものです。ボールスプライン事件で示された第1乃至第5要件の全てを満たさなければなりません。

 

この点について,従前は第1要件と第5要件を中心に均等論を否定する判決が多勢を占めていたと思うのですが,最近では第2要件・第3要件によって均等論を否定する判決も増加傾向にあるようです。

本件もこの点を意識し,第1要件だけではなく,第2要件又は第3要件もあわせて判断しているように思われます。

 

【第2の点】

第2の点は,第一審原告が審決取消訴訟で進歩性が認められた特徴的部分が均等論の本質的部分と理解されるべきであると主張したのに対し,以下のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」としている点です。

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第1の特徴に基づく進歩性は否定されたことから,第2の特徴こそが,本件発明3の進歩 45性を基礎付ける部分すなわち本質的部分であり,そうすると,「第1の反力プレート」1枚で回転駆動装置と反力アームの両方と係合していることは,本件発明3の本質的部分ではないと主張する。
しかし,そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題であるし,上記審決取消訴訟の判決につき1審原告主張のように理解することにも疑問がある。その点をおくとしても,

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上述のようにマキサカルシトール最高裁判決では,「特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は・・」としていることからすれば,本質的部分は従来技術と比較した特徴的部分に認められるべきということになります。

そして,特許として認められるということは,従来技術にない新規なものであり(新規性),従来技術から容易に想到できない特徴的部分がある(進歩性)からこそ,ということになります。

そうすると,上記「従来技術と比較した貢献」とは何であるか?ということを考慮するにあたっては,特許要件の判断の過程で考慮され,進歩性が認められたポイントである特徴部分が考慮されるべきであるように思われます。

 

したがって,上述のように「そもそも,均等の第1要件である本質的部分か否かの判断と進歩性に係る容易想到性の判断とは異なる問題である」として切り捨てるのは,合点がいかないように思われます。

 

【第3の点】

本件では,以下のように判示して新規性欠如に関する無効理由の抗弁が却下されています。

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5 本件特許4の新規性欠如について

・・・・・・・ア 1審被告は,控訴提起(平成29年5月30日受付)及び平成29年7月26日付け第1準備書面の提出に後れる平成29年12月4日付け第6準備書面において,本件特許4につき新規性欠如による無効理由の存在を初めて主張したものであり,上記無効主張が時機に後れた攻撃防御方法の提出であること,その点につき1審被告に少なくとも過失があることは明らかである。また,上記主張につき1審原告による認否反論を要すると共に,1審原告がこれを認めるとは考え難いことから,1審原告の反論に対する1審被告の再反論がされることも容易に推察される。
その結果として訴訟の完結が遅延することは明らかである。
したがって,上記無効主張については,民訴法157条に基づき,これを却下することとする。

・・・・・・・・・・・・・・・

新規性欠如を理由とする引例ですから,それなりに強力な引例であったはずです。

控訴審の第6準備書面の提出の際というと,交渉段階・一審が終了し,さらに控訴審が相当進行した後ということになりますので,やむを得ないということもわからないではないのですが,提出した側としては必死で世界中の文献を探して続けて見つけてきた引例ということだと思いますので,却下されたときの心中を思うとなんともいえない気持ちになります。

また,民事訴訟が相対的効力しか持たないとはいっても特許事件の世間への影響や,特許の対世的効力という側面から考えた場合に時機に後れたとして却下したことが妥当であったのかは疑問があるように思います。