静岡の弁理士・弁護士 坂野史子のブログ

静岡市で活動している理系の弁理士 弁護士です。静岡のぞみ法律特許事務所 http://www.s-nozomilawpat.jp

グリー対スーパーセルオーワイ特許侵害事件・・出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した事例

最近ゲーム業界は,著作権侵害で争った釣りゲーム事件の影響か,著作権ではなく特許侵害で争う事件が多くなっているといわています。

 

tokkyo.hanrei.jp

本件で注目したいのは,ゲーム特有の問題ではなく,以下のように「ゲーム空間の全体」という構成の意義を出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した点です。

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これに対し,原告は,構成要件1C及び2Dにおける「ゲーム空間の全体」 とは文字通りゲーム空間全体を意味するのであってゲーム空間のうちどの部 分を選択するかの決定権をプレイヤが有していることを必須の構成要素とは 5 するものではないと主張し,また,本件明細書の第1及び第2実施形態は,テ ンプレートの作成,適用の具体例を示したにすぎないなどと主張する。
しかし, 「ゲーム空間の全体」がプレイヤによって選択されるとしても,プレ イヤによってどのような態様による選択がされるかについては,特許請求の範 囲の記載からは明らかではない。本件明細書には,テンプレートの作成に当た10 って,プレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択することは記載されている が,それ以外の選択に関する構成については何ら記載も示唆もないから,前記 と異なる態様でのプレイヤによる選択について,本件明細書に記載や示唆が あるとはいえないし,原出願日の当業者の技術常識に照らして明らかであると もいえない。また,原告は,本件特許の出願経過(甲22)において,プレイ15 ヤがタップする任意の2点をゲーム空間の左上及び右下の点とすれば「ゲーム 空間の全体」になるなどと説明しており,この説明はプレイヤにおいてゲーム 空間内の一定の範囲を選択することを前提としているものといえ,前記 の解 釈に沿うものといえる。原告の主張は採用することができない。

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そもそも特許は技術を技術思想に昇華させ,それを言葉で表すという無理なことをしているので,どうしても曖昧な部分がでてきます。明細書内に全ての文言を定義しておくというのも現実的ではないし,そのようなことをすれば,むしろ特許の技術的範囲をむやみに狭める方向に働くこともあるでしょう。

 

加えて出願経過においては,特許を取得することが目的ですから,多少強めの主張をすることもあり得るところです。

 

他方,競合品(侵害品)として将来どのような態様が出現するかは,出願時や意見書提出時に予測することは困難です。

 

文言に拘泥せず,発明の本質をどう捕らえるか,というところが特許侵害事件の本質であると思いますが,かといって技術を言葉で表したり,意見を言葉で表明している以上,言葉は無視できない。

 

現在は無効審判等以外は同じ事務所の弁理士が対応しているので,私自身は出願等の実務はやっていないのですが,弁理士として対特許庁の業務を行っているときには,特に意見書提出の際に,いかに余計なことを書かずにうまく特許にできるか考えたりしていましたが,改めて難しい問題だなあと思いました。

 

ザ・リラクス 対ザラ・ジャパン事件・・ファッションのデッドコピー(不正競争防止法2条1項3号)が認められたが,損害額について,商品の価格差等を考慮して「原告が販売することができないとする事情」を認めた事例

ファッションのデッドコピーについて不正競争防止法2条1項3号で差止・損害賠償を請求する事例は最近結構ありますが,これもそうです。

etc.hanrei.jp

ファッションはライフサイクルが短いので,意匠等で登録するコストをかける程のものではなく,不正競争防止法2条1項3号による日本国内での発売3年以内という期限付のデッドコピー規制が適しているといえると思います。

 

特徴的なのは,不正競争防止法19条5号ロの適用除外について

・ザラ・ジャパンが輸入業者であったため,「他人の商品の形態を模倣した商品を譲り受けた者」であると認定された点。

・しかしながら,デッドコピー品であることを知らないことにつき重過失ありとして,適用除外が排除され,不正競争防止法2条1項3号が認定された点です。

 

さらにもう一つ,知財屋として注目したいのは,損害額の推定規定の適用です。

本件は不正競争防止法5条1項に基づく請求ですので,原告の利益額を基準に損害賠償請求をしているのですが,原告と被告の商品の大きな価格差,被告のブランド力等を理由に,「原告が販売することができない事情」があるとして損害額が減額されている点です。

 

ファッションブランドにおいては,デッドコピー規制は要注意であり,もちろん,オリジナルデザインで商品を創出していくことにこしたことはありませんが,仮に問題になった場合には,自社のブランド力や販売力,ライバル会社の動向等により,損害額を減額することができる可能性があるということです。

 

著作権法30条の4はフェアユースなのか

文化庁の資料には改正著作権法30条の4について以下のように記載されています(なお施行は来年からです)。

【条文の骨子】

包括的に規定

 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物
に表現された思想又は感情の享受を目的としない
場合には、その必要と認められる限度においていずれの方法によるかを問わず、利用することが
できる。

利用方法は限定せず

 ただし、著作権者の利益を不当に害する場合は
この限りでない

1 著作物利用に係る技術開発・実用化の試験

2 情報解析
3 1・2のほか、人の知覚による認識を伴わない

利用

 

いやーわかりにくいですね。

かねてから議論されてきたフェアユースについて規定したものではないかと言われていますが非利益享受について,人の知覚による認識を伴うものが除外されたら,議論されてきたフェアユースとしては意味ないんじゃないでしょうか。

 

ちなみにアメリカのフェアユースの基準は以下のとおりです。

1.利用の目的と性格(営利目的か非営利か等)
2.著作物の性質(高度な創作か事実に基づいたものか等)
3.利用された部分の量と重要性
4.著作物の潜在的価値に対する利用の及ぼす影響(著作者が損をするか等)

 

著作者が損をしなければ,著作物は自由に利用した方が文化の発展に資するということだと思います。著作権は登録制ではないので,登録なしでどんどん発生してしまいます。しかも著作者の死後50年という長期間にわたるもので,特許権等と同様,損害の額の推定規定も設けられており,非常に強大です。

 

判例の蓄積を待ちたいところですが,著作権法30条の4の1乃至3の例示が柔軟な適用を妨げるとすれば,なんとももったいないなあと思います。

ブログの記事が日本語の勉強になる

オーストラリアにいらっしゃる依頼者から,私のブログは日本語の勉強になる,と仰って頂きました。

 

簡潔な文章でわかりやすいからということだそうです。

 

うれしかったので,記録に残しておきます。

 

これからも簡潔でわかりやすい文章を心がけたいと思います。

交通事故にあったら早めに弁護士に相談してください。

知的財産権や企業法務の他に,交通事故等のご相談も受けています。

過失割合の分析やカルテや診断書の分析には理系の素質が役に立つと感じています。

 

先日弁護士特約を使ってご相談にみえた方から,

「もう少し早く相談に来ればよかったんだけど・・・・」

と言われました。

 

治療が終了する時点で,痛み等が残っている場合は,医師に後遺障害診断書を書いてもらい,後遺障害の等級認定が受けられるかどうか申請を行うことが考えられます。

 

構造的な異常がレントゲン等で確認できない場合でも,後遺障害診断書の書き方や,症状及びそれによって普段困っていること等をまとめた陳述書を付ける等の方法により,通院頻度が高く,それなりに長い期間通院していると後遺障害が認められることがあります。

 

もちろん必ず後遺障害が認められるとは限りませんが,後遺障害診断書の記載方法等について早めに弁護士のアドバイスを受けておくと,適切な処理を行うことができ,後遺障害等級認定を受けられる可能性が高くなると感じています。

私が過去に扱った事件でも,自分で等級申請を行った場合には認められなかったものが,弁護士が介入して異議申立を行うことによって等級がみとめられたり,最初に後遺障害等級申請を行う段階から弁護士が介入することにより,早期に後遺障害がみとめられたりしたことがあります。

 

弁護士特約がついていれば,弁護士費用は心配せずに相談をすることができますから,安心です。自動車保険には是非弁護士特約を付けてください。

保険会社から提示される損害賠償額は裁判基準よりも低いことが通常ですが,弁護士に依頼をすれば裁判基準での請求が可能となりますし,何よりも,交渉を弁護士にまかせることにより,安心と納得を得られることになります。

 

交通事故は,どんなに注意をしていても起こってしまうことがあるものです。

事故にあったら早めに弁護士にご相談ください。

契約書はビジネスモデルを反映させる。

契約書のチェックや作成を依頼された際には,実際に行うビジネスがどのようなものか詳細にお聞きします。

 

その上で契約の内容がビジネスモデルを反映しているかどうか考えながら,依頼者ができるだけ有利な契約を締結できるように修正をしたり,条項を作成したりします。

 

契約書で驚いたのは,実際のビジネスモデルと関係のない内容が盛り込まれ,これに対して対価を支払うことになっていたり,知的財産権利者側の使用に大幅な制限がかかっていたりした例です。

 

このようなことが本当にあるのです。

BtoBの契約書の場合は,裁判所でも文言どおりに当事者が内容を理解して合意したとされることが多く,契約の際にそんな内容だとは知らなかったという言い訳は通用しないことが殆どです。

なお,こちらが対価をもらう側の場合には,確実に回収ができるように,相手の口座情報を入手する等の方法(後で仮差押等ができる可能性があるので)も一緒に考えておくことも有用です。

 

 契約書は1度専門家と一緒に相談しながら確認をすることをおすすめします。

 

簡単な法律相談であれば30分5000円で受けている弁護士も多いと思うので,1度相談してみてください。

私は個人事業主向けに月額1万円+税で法律相談3回パックを用意しています。結構お得だと思います。

商標登録は重要です。

商標登録についての相談で深刻なものに遭遇することがあります。

 

1件は数年使用してきた標章について,商標権者から警告書が来たというものです。

自分が使用してきた標章について商標登録出願はしていませんし,使用する前に特許情報プラットフォーム|J-PlatPatで他の人が商標登録をしていることも調べていませんでした。

数年使用してきて,ブランドが育ち,検索ワードとしても使用される頻度が高くなってきた頃に来た警告書です。

 

相談者の標章は商標登録出願の後から使用が開始されていました。

この場合,使用してきたというだけでは対抗する手段がありませんので,変更せざるを得ません。できるだけ類似と判断されないよう,また権利者とのもめ事をおさめることが目的なので,権利者が納得できる名称に変更せざるを得ません。

これまで育て来たブランドを捨てることになるのです。なんとも残念なことです。

 

 

その他の件としては,自分がオリジナルでデザインしてもらった標章を,第三者が勝手に商標登録出願をしたというものです。

もし自分が先に商標登録出願をしていれば,先に登録されているものと同一のものとして,知り合いの出願が登録されるはずはないものでした。

知り合いの出願については,出願時には情報提供,登録された後は異議申立,その後は無効審判という手段で登録を阻止するべくできるだけのことをすることになりますが,必ず阻止できるとは限りませんし,費用もかかります。

商標権と抵触する著作権等を有している場合には,対抗することはできますが(商標法29条),立証等面倒な問題は残ります。

 

いずれにしても,自分が使用するマーク等については,使用する前に特許情報プラットフォーム|J-PlatPatで調べ,出願や登録されているものがないかを調査しましょう。商標は商品・役務との関係で決まりますので,指定商品・役務との関係もよく見てください。

 

その上で,自分が使用するマーク等については,商標登録をすることをお勧めします。

なお,登録にあたっては審査を通過するための要件がありますので,出願を無駄にしないためにも専門家に相談して進めることをおすすめします。