グリー対スーパーセルオーワイ特許侵害事件・・出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した事例
最近ゲーム業界は,著作権侵害で争った釣りゲーム事件の影響か,著作権ではなく特許侵害で争う事件が多くなっているといわています。
本件で注目したいのは,ゲーム特有の問題ではなく,以下のように「ゲーム空間の全体」という構成の意義を出願経過(意見書)を斟酌して「ゲーム空間の全体」の意義を解釈し,非侵害と認定した点です。
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これに対し,原告は,1C及び2Dにおける「ゲーム空間の全体」 とは文字通りゲーム空間全体を意味するのであってゲーム空間のうちどの部 分を選択するかの決定権をプレイヤが有していることを必須の構成要素とは 5 するものではないと主張し,また,本件明細書の第1及び第2形態は,テ ンプレートの作成,適用の具体例を示したにすぎないなどと主張する。
しかし, 「ゲーム空間の全体」がプレイヤによって選択されるとしても,プレ イヤによってどのような態様による選択がされるかについては,特許請求の範 囲の記載からは明らかではない。本件明細書には,テンプレートの作成に当た10 って,プレイヤがゲーム空間内の一定の範囲を選択することは記載されている が,それ以外の選択に関する構成については何ら記載も示唆もないから,前記 と異なる態様でのプレイヤによる選択について,本件明細書に記載や示唆が あるとはいえないし,の当業者のに照らして明らかであると もいえない。また,原告は,本件特許の(甲22)において,プレイ15 ヤがタップする任意の2点をゲーム空間の左上及び右下の点とすれば「ゲーム 空間の全体」になるなどと説明しており,この説明はプレイヤにおいてゲーム 空間内の一定の範囲を選択することを前提としているものといえ,前記 の解 釈に沿うものといえる。原告の主張は採用することができない。
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そもそも特許は技術を技術思想に昇華させ,それを言葉で表すという無理なことをしているので,どうしても曖昧な部分がでてきます。明細書内に全ての文言を定義しておくというのも現実的ではないし,そのようなことをすれば,むしろ特許の技術的範囲をむやみに狭める方向に働くこともあるでしょう。
加えて出願経過においては,特許を取得することが目的ですから,多少強めの主張をすることもあり得るところです。
他方,競合品(侵害品)として将来どのような態様が出現するかは,出願時や意見書提出時に予測することは困難です。
文言に拘泥せず,発明の本質をどう捕らえるか,というところが特許侵害事件の本質であると思いますが,かといって技術を言葉で表したり,意見を言葉で表明している以上,言葉は無視できない。
現在は無効審判等以外は同じ事務所の弁理士が対応しているので,私自身は出願等の実務はやっていないのですが,弁理士として対特許庁の業務を行っているときには,特に意見書提出の際に,いかに余計なことを書かずにうまく特許にできるか考えたりしていましたが,改めて難しい問題だなあと思いました。